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1.★明日への扉★ 1

2008年7月29日 (火)

(7/29)★明日への扉★ 1.32

チェョンマン川の流れは相変わらず速かった。

 その土手に現れた珠洲は、ちらりと左の方に目をやった。リョンミンと一緒に通過したときと殆ど同じ場所に、一名の国境警備隊員が立哨していた。

……行こう」

「うん」

 珠洲の傍にいたミヂャは、さらにその傍にいた美濃の背中に乗りかかった。やがてその二人の姿は光に包まれて消えた。

 一旦、川岸ぎりぎりの所にその姿が出現し、またすぐに消えた。

 そして、その直後にミヂャを背負った美濃はワイシュエの地を踏んだ。彼はペンの力による空間のジャンプを数度繰り返しながら、一気に土手を駆け登った。

「わっ?」

 その次のジャンプの際に、美濃足元にあった小石に躓いて転倒した。

「たたた……

 美濃はミヂャの下敷きになった。

「ごめん……、大丈夫?」

「あ、うん、大丈夫…………?」

 美濃は自分の背中が軽くなるのを感じた。同時に、カチャカチャと複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。

顔を上げると、目の前に一本の歩兵銃があった。

「え……

 美濃は、軍服を着用した三人の男に取り囲まれていた。

「ムーグウォ軍――

 対岸からその様子を窺っていた珠洲の顔から血の気が引いた。

「嫌! やめてー!」

 美濃はびっくりして首を背後に向けた。すぐ後ろで、ミヂャが別の二人の軍人の腕の中で必死にもがいていた。

「おいっ! お前も来い!」

 不思議なことに、美濃は彼のその言葉の意味が理解できた。

「あっ……

ムーグウォ軍兵士のうちの一人が、美濃の左腕を掴んで無理やり立たせた。

そして、さらにもう一人の兵士が美濃に歩み寄って来た。

――

 美濃は怯えながら彼を睨んだ。

「うわあっ!」

 その直後に、飛来してきた青緑色の光が彼の左肩を貫通して、彼は悲鳴を上げた。

――!」

 美濃の腕を掴んでいた方の兵士は息を呑んだ。撃たれた兵士は、左肩から血を流しながら倒れた。

「なっ……、うっ……

 その後、すぐに美濃を掴んでいる兵士も倒れた。

 そしてその背後で、珠洲が、ボールペンを持った腕を自分の胸の前に翳していた。

「珠洲ちゃん……!」

 美濃は叫んだ。

「き……、貴様……!」

 ミヂャを掴んでいた三人の兵士は、慌てて歩兵銃に手をかけた。

 しかし、彼らが銃口を向けた先から珠洲の姿は消えていた。続いて、激しい光と共に、その場所よりも数メートル程右斜め前に再び彼女の姿が出現した。

「なっ……、何時の間に?」

 珠洲には、体の部位を選んでいる余裕がなかった。彼らの体を目に入れる毎に、躊躇うことなく、撃て、と心の中で叫んだ。

 その結果、あっという間に全員の兵士が倒れた。

その後に、珠洲は、改めて周囲を見渡した。兵士の五人のうちの二人は、頭部に攻撃を受けて即死していた。

珠洲は、徐々に、際限のない恐怖に襲われ始めた。

…………、ああ……

「珠洲ちゃん……?」

その瞳から涙が零れ出しているのを見て、美濃は驚いた。

「私……、人を殺しちゃった……

……! ……ごめん……珠洲ちゃん……

 少しの間言葉を失った後に、彼は珠洲に詫びた。

2008年7月26日 (土)

(7/26)★明日への扉★ 1.31

「これ……御飯と、茹玉子……。今日中に会って来るって言ったら、一人一箱ずつ、セョンチェョルさんが用意してくれたんだ……。……あと、携帯用の生米もあるよ」

「えっ……、玉子……?」

「玉子って、私たちが食べていいの?」

 三人は驚いて聞き返した。

「え……? あ、うん、いいんだよ」

 珠洲はにっこりと笑って答えた。

「本当……? 凄いよ! 珠洲ちゃん、美濃くん、ありがとう……、本当にありがとう!」

「え……、うん……

 無邪気に興奮するミヂャの勢いに押されて珠洲と美濃は赤面した。

「うん……二人とも、ありがとう……。ムーグウォは、豊かな所みたいだね」

グヮンヒも穏やかな表情で二人に礼を述べた。

「え……あ、はい……

二人はグヮンヒから目を逸らしたまま返事をした。

 野草が風に揺られていた。

……あ、あの、そろそろ……

 食事を終えて、珠洲が切り出した。

「あ……、うん……。次は、ミヂャだね……

 グヮンヒはそれに答えた。リョンミンが出発した直前のときと同じように、若干の間が生まれた。

「それじゃあ、……ミヂャ……

 それからしばらくして、グヮンヒはリュックを背負った珠洲と、ミヂャを背負った美濃に声を掛けた。三人は顔を上げた。

「その……、気をつけてね」

「はい……

 美濃は真剣な面持ちで答えた。

「大丈夫だよ。お姉ちゃん……、明日、ワイシュエで待ってるね」

ミヂャは元気よくグヮンヒを励ました。

「うん……、また明日」

 グヮンヒとスミンは同時に言った。

「また明日」

 ミヂャはそれに笑って答えた。

やがて、三人の体は青緑色の光に包まれ始めた。光が完全に彼らを包んですぐに、光ごと三人の姿はその場から消えた。そして、光の粒だけが、その場に散らばった。



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2008年7月25日 (金)

(7/25)★明日への扉★ 1.30

只今、投稿に失敗しますので大変恐れ入りますが時雨からお願い致しますm(_ _)m

http://blogs.yahoo.co.jp/t_finepc/42064480.html


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2008年7月24日 (木)

(7/24)★明日への扉★ 1.29

ワイシュエ市郊外の平原の中に、一個の、朱色の屋根群があった。

ムーグウォに入った直後に交代して、リョンミンを背負っていた珠洲と、リュックを背負っていた美濃は、それらに接近し、その中にあった、母屋と思われる建物の前でペンによるジャンプを止めた。二人は、そこでリョンミンと、彼を連れて来た自分たちのことをどう説明するべきか悩んだ。

「えっと……わっ……

 リョンミンは、そんなことはお構いなしに勢いよく母屋の入り口を開けた。

「行こう、珠洲お姉ちゃん、美濃お兄ちゃん」

「あ……、うん……

 二人は緊張しながら彼の後について行った。

 幾つかの茹玉子が、手篭の中に盛られた。

「あれ……? リョンミン……くん?」

 それを土間のテーブルの上に置いた、眼鏡を掛けた優しそうな瞳の中年の男が振り返った。

「こんにちはー、セォンチェョル叔父さん」

 リョンミンははにかみながら彼に挨拶した。

「こんにちは……、どうして……、それに……?」

 セォンチェョルと呼ばれたその男は、不思議そうに珠洲と美濃の方に目を向けた。

「あ……あっ、あの……

 珠洲は意を決して切り出した。

 セォンチェョルは息を詰まらせた。

 珠洲と美濃は、黙ったまま彼の瞳をじっと見つめた。

「そんな……、兄さんたちが……

 やがてセォンチェョルは自分の額を押さえた。

「あの……、それで……

「ああ……、わかっています……。この子たちですね」

「はい……

「大丈夫です……、安心してください。兄さんの子どもたちのことは、私がなんとかします」

 セォンチェョルは自分の気を落ち着かせてから、真剣な表情で言い切った。珠洲と美濃は小さくため息をついた。

「珠洲お姉ちゃん……、美濃お兄ちゃん……

 リョンミンは嬉しそうに二人の方に顔を向けた。

……うん……

 二人も笑顔を彼に向けた。



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2008年7月23日 (水)

(7/23)★明日への扉★ 1.28

 ソクト共和国とムーグウォ連邦とを隔てているチェョンマン川の深緑色の水面が、日光を反射させていた。

 川幅は中流程度で、水流はかなり速かった。

 岸辺の潜伏哨所では、軍の国境警備隊員が一人、時折目線を変えながら立哨していた。

 珠洲と、美濃と、美濃に背負われたリョンミンは、草むらの中から彼の背をじっと見つめていた。警備隊員の方は、珠洲たちの存在に気付いていなかった。

 珠洲と美濃は目線を川の方に移した。

……どうかな……、行けそう……?」

……浮力に頼っちゃいけないから、一回で、対岸まで行かないといけないんだけど……、ぎりぎりかな……

 リョンミンは美濃の顔を不安そうに見つめた。美濃は少し迷ってから、再び口を開けた。

「うん……行ってみる……。でも……リョンミンくん……、もし、ジャンプが届かなくて、川の中だったとしても、流れが速くて危ないから、背中から降りちゃだめだよ」

「え……、うん……

 リョンミンは頷いた。

 美濃は胸の前でボールペンを発光させ始めた。一方、珠洲もボールペンを構えて、いつでもその先から攻撃用の光が放てられるようにした。

「行くよ!」

すぐにその場所から美濃とリョンミンの姿が消えた。

 その後、一旦、川の此岸すれすれの所に二人の姿が出現した。

「届いて!」

 美濃は足を一歩前に出した。

 それは、そこにはなかったはずの砂利を踏んだ。

 そして、彼岸の水際に、光に包まれて、美濃と、彼に背負われたリョンミンの姿が出現した。

……!」

美濃は即座に前方を凝視した。再び二人の体は同じ色の光に包まれ、そして、それごとその場所から消失した。

直後、珠洲の姿もその場に現れ、そしてすぐに消えた。

一方、チェョンマン川の流れは相変わらず急なままだった。

立哨中の警備隊員は時折目線を変えながら、ずっとその流れる音を聞いていた。

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(7/23)★明日への扉★ 1.27

 その直後に、珠洲の気配を辿って、リョンミンを背負った美濃もその場所にジャンプして来た。

 道の遠方に遮断棒が降りていた。その手前に、保安員と、迷彩服を着て、半世紀程前に作られた半自動式歩兵銃を肩に掛けた憲兵の姿があった。

「保衛哨所……

「え……?」

 リョンミンはきょとんとした表情で珠洲の顔を見た。

「グヮンヒさんが言ってた……途中に、幾つか秘密警察の哨所があるって……。あれだよね……?」

「うん……。全然融通が効かないから、見つかっちゃ駄目だって……。どうしよう……、回り道する……?」

「うん……

 珠洲と美濃は道を逸れて山の中に入った。

 その直後に、背後からバタバタという音がした。

(保安員――?)

 びくっとして二人は振り返った。その先で、数羽のツバメが木々の間を飛翔していた。

 二人はほっとため息をついた。

 物乞いをするくらいしか――。

 直後に、美濃の脳裏に自嘲するグヮンヒの顔が蘇った。

「美濃……お兄ちゃん……?」

 立ち止まったままの美濃の表情を、リョンミンが心配そうに窺った。

…………ごめん…………珠洲ちゃん……、この国では、物乞いのことを、渡り鳥っていうんだっけ……?」

「あ……、うん……

「でも……みんなには、空を飛ぶための羽根もないね……

「え……

美濃はそう呟きながら項垂れた

……あの、美濃くん……

程無くして珠洲の口が開いた。

……?」

「私たちが、みんなの羽根になることはできないかな……

「え……?」

美濃は驚いて額を上げ、珠洲の方を向いた。珠洲は俯いたまま少しだけ頬を赤らめた。



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2008年7月21日 (月)

(7/21)★明日への扉★ 1.26

「うん……

 美濃は、しゃがんでリョンミンを背負った。

「また……すぐに代わるね……

 珠洲は美濃に言った。

「あ……うん……

「私たちも……、ちょっとずつ、後から行くね。通行カードがあるから、チェョンス市までは問題ないんだ……。どっちにしろ、そこから先は違法だけどさ……

 グヮンヒが珠洲と美濃に言った。

「はい……

「もう……、この家に帰ってくることってないんだよね……」

 ミヂャは名残惜しそうに家の玄関を眺めた。

「うん……。でも……ここを離れないと、僕たちに明日はないよ……」

 スミンが彼女を宥めた。

「うん……」

「リョンミン……、珠洲お姉ちゃんと、美濃お兄ちゃんの言うことをよく聞いて、いい子にしてなきゃだめだよ」

 ミヂャが、リョンミンに不安そうに言った。

「うん」

 リョンミンはこくりと頷いた。

「ミヂャちゃん……、大丈夫……。リョンミンくんは、必ず、私がワイシュエに送って来る……。少しの間だけ、待ってて……、半日で、戻って来るから」

 珠洲はそう言ってミヂャを励ました。

「うん……

 ミヂャは不安を押し隠して頷いた。

 山中の一本道で、空中の一点が激しく青緑色に発光し始めた。そして、それはすぐに四方に飛散した。
 
その二、三秒後に、その数十メートル先でも同様の現象が起こった。さらに、その約二、三秒後にも、その先で同様の現象が起こった。美濃とリョンミンにとって、それは、あたかも止まったまま、周囲の全ての景色が変わり続けているようにも見えた。リョンミンは目を白黒させながら美濃の肩でそれを眺め続けた。
「リョンミンくん……
……?」
 美濃は首を少し曲げた。
……大丈夫? 気持ち悪くならない……?」
「あ……、うん……
 リョンミンは小さく頷いた。
 しばらく進むと、美濃の先を行く珠洲はジャンプを止めた。同時に彼女の周囲の景色の変化も止まった。

 

(7/21)★明日への扉★ 1.25

チェョンス市?」

 合作所の窓口で統計員が声を上げた。

「はい……、家族全員で行きたいのですが」

 グヮンヒは彼にそう申し出た。

「残念ながら……、食糧の調達目的で、通行カードを発行することはできないのですが……

……、それはわかっています。ですが、それでもお願いしたいのです……

 彼女はポケットから先程闇市で買ったタバコのうちの二箱を取り出すと、それをさっとテーブルの上に置いた。

「あ……、失礼しました、ええと、親戚の方の弔事でしたね」

 統計員は慌ててタバコをしまった。

「はい……

「保安省の方には、私からお伝えしておきましょう……。明日、もう一度来てください。全員のカードを用意しておきますから」

「はい、よろしくお願いします」

 グヮンヒは彼に軽く頭を下げると、合作所から退出した。

 その翌日、朝日がヘォ家の屋根を照らしていた。

 珠洲は軽くトウモロコシの粉を入れたベージュのリュックサックを手に取った。

「それと……、これも持ってって」

…………?」

 グヮンヒは、二箱のタバコを珠洲と美濃に差し出した。

「もし、何かあったら、これを心づけに使って……。六箱買って、うち二つは、通行カードと引き換えになったんだけど……、半分は、珠洲ちゃんが持ってて」

 二人はタバコを手に取った。

「多いね……、トウモロコシ四キロで六箱って」

 スミンがグヮンヒに訊いた。

「まとめて買うって言ったら、一箱おまけしてもらったんだ」

 スミンに答えると、グヮンヒは再び珠洲と美濃の方に顔を向けた。

……

 若干の間があった。

「あの……、じゃあ、そろそろ……」

美濃がその沈黙を破った。

「え……、あ、そだね……、リョンミン」

 グヮンヒはリョンミンを促した。



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2008年7月19日 (土)

(7/19)★明日への扉★ 1.24

「えっ……?」

「このペン……持っている人は、多分、見えている所くらいまでなら、一瞬で移動できるんだ……。ワイシュエって、ムーグウォ連邦のワイシュエ地区だよね……、あそこまでだったら、僕たち二人が交代しながら、一人ずつ、順番に背負っていけば、二日もあれば、全員を送ることができると思う……。それと、人の居場所も、どこにいてもすぐにわかることができるから、他の人が、自由に移動することもできるんだ……

 四人は美濃の話を、狐に摘ままれたような顔で聞いていた。やがて、ミヂャが恐る恐る口を開けた。

「珠洲ちゃん、美濃くん……、あなたたちは、一体何者なの……?」

「え……

 珠洲は意を決して美濃の方に顔を向けた。美濃も珠洲の目を見ながら頷いた。

……ごめん……、私たちも、なんでこんな力を授かったのか、よくわからないんだ…………でも……、もう、隠したくないから言うね……、私は……朝霧珠洲っていうんだ」

……僕は、茨木美濃……、僕らは、日本の小学生なんだ……

 美濃が珠洲の後に続いた。

「え……日本……?」 

四人はその言葉に驚かされた。
……では、全部で何キロあるのですか?」
 翌朝、ミエョン村の闇市の一角で、中年の男性がグヮンヒに尋ねた。
「四キロです。一キロ八二〇ヂェョンですよ」
 彼女の布製のリュックサックが小さく揺れた。
「……高いですね……。全部まとめて買うから、八〇〇ヂェョンにしてくれませんか?」
 続いて、男性に連れ添っていた中年の女性がグヮンヒに訊いた。
「うーん……、なら、八一〇ヂェョンでどうですか? これが限界ですが……」
 グヮンヒが提案した。
「わかりまして、それでいきましょう。えーと、一キロ八一〇ヂェョンだから……」

「三二四〇ヂェョンよ」

「ああ……」

 男性は首から下げた財布の中から何冊かの札束を取り出すと、そわそわした様子でそれを数えて、そのうちの何枚かをグヮンヒに手渡した。彼女はそれを数えた後、トウモロコシの粉を彼が持っていたリュックに移し替え始めた。

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(7/19)★明日への扉★ 1.23

「そんな……

 ミヂャが顔を引きつらせた。

「そんなこと、絶対にするはずが……! だいたい、保安省に捕まったんだったら、そのときに、うちに連絡が来るはずだよ!」

 スミンは叫んだ。

「なんか、合作所の方で手違いがあって、連絡できなかったって……

 グヮンヒが低い声で言った。

「え……

 スミンは息を詰まらせた。一方グヮンヒは、堪え切れずに粒状に涙を散らした。

「それで……、二人とも、先日、保安省の拘置所で、衰弱死したって……

……そんな……

 スミンとミヂャの瞳から、勝手に涙がこぼれ出し始めた。

 夕陽が家の縁側に当たっていた。

……これから、どうしよう……

 落ち着きを取り戻したスミンが、やがて重い口を開けた。

……闇市で……物乞いするくらいしか……

 グヮンヒが呟いた。

 スミンは項垂れた。絶望的な空気が全員を包んだ。

「あの……

 ミヂャがそれを破った。

「ワイシュエの、セォンチェョル叔父さんの所に行けないかな……

「え……

「それは無理だよ……。ソクトを出るまでの間に、通行照査地区があるし……。あそこを子どもだけで、それも、4人で抜けるなんて……、きっとすぐに捕まって、少年キャンプ送りだよ」

「え……

 少年キャンプと聞いたミヂャは震え上がった。

「あ、あの……

 珠洲が声を上げた。

「珠洲……ちゃん?」

「移動するんだったら、このペンで、何とかなるかもしれない……

 珠洲はボールペンをぎゅっと握り締めた。



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