(7/29)★明日への扉★ 1.32
チェョンマン川の流れは相変わらず速かった。
その土手に現れた珠洲は、ちらりと左の方に目をやった。リョンミンと一緒に通過したときと殆ど同じ場所に、一名の国境警備隊員が立哨していた。
「……行こう」
「うん」
珠洲の傍にいたミヂャは、さらにその傍にいた美濃の背中に乗りかかった。やがてその二人の姿は光に包まれて消えた。
一旦、川岸ぎりぎりの所にその姿が出現し、またすぐに消えた。
そして、その直後にミヂャを背負った美濃はワイシュエの地を踏んだ。彼はペンの力による空間のジャンプを数度繰り返しながら、一気に土手を駆け登った。
「わっ?」
その次のジャンプの際に、美濃足元にあった小石に躓いて転倒した。
「たたた……」
美濃はミヂャの下敷きになった。
「ごめん……、大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫……、……?」
美濃は自分の背中が軽くなるのを感じた。同時に、カチャカチャと複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。
顔を上げると、目の前に一本の歩兵銃があった。
「え……」
美濃は、軍服を着用した三人の男に取り囲まれていた。
「ムーグウォ軍――」
対岸からその様子を窺っていた珠洲の顔から血の気が引いた。
「嫌―! やめてー!」
美濃はびっくりして首を背後に向けた。すぐ後ろで、ミヂャが別の二人の軍人の腕の中で必死にもがいていた。
「おいっ! お前も来い!」
不思議なことに、美濃は彼のその言葉の意味が理解できた。
「あっ……」
ムーグウォ軍兵士のうちの一人が、美濃の左腕を掴んで無理やり立たせた。
そして、さらにもう一人の兵士が美濃に歩み寄って来た。
「――」
美濃は怯えながら彼を睨んだ。
「うわあっ!」
その直後に、飛来してきた青緑色の光が彼の左肩を貫通して、彼は悲鳴を上げた。
「――!」
美濃の腕を掴んでいた方の兵士は息を呑んだ。撃たれた兵士は、左肩から血を流しながら倒れた。
「なっ……、うっ……」
その後、すぐに美濃を掴んでいる兵士も倒れた。
そしてその背後で、珠洲が、ボールペンを持った腕を自分の胸の前に翳していた。
「珠洲ちゃん……!」
美濃は叫んだ。
「き……、貴様……!」
ミヂャを掴んでいた三人の兵士は、慌てて歩兵銃に手をかけた。
しかし、彼らが銃口を向けた先から珠洲の姿は消えていた。続いて、激しい光と共に、その場所よりも数メートル程右斜め前に再び彼女の姿が出現した。
「なっ……、何時の間に?」
珠洲には、体の部位を選んでいる余裕がなかった。彼らの体を目に入れる毎に、躊躇うことなく、撃て、と心の中で叫んだ。
その結果、あっという間に全員の兵士が倒れた。
その後に、珠洲は、改めて周囲を見渡した。兵士の五人のうちの二人は、頭部に攻撃を受けて即死していた。
珠洲は、徐々に、際限のない恐怖に襲われ始めた。
「……あ……、ああ……」
「珠洲ちゃん……?」
その瞳から涙が零れ出しているのを見て、美濃は驚いた。
「私……、人を殺しちゃった……」
「……! ……ごめん……珠洲ちゃん……」
少しの間言葉を失った後に、彼は珠洲に詫びた。

